AIへの批判で広く引用されるEd Zitron氏。その予測は実際に当たっているのでしょうか。エンジニアのDan Luu氏が、自身のサイトdanluu.comでZitron氏の予測を一つずつ実際の結果と突き合わせる記事を公開し、Hacker Newsで話題になりました。
論点は、懐疑論が正しいか間違っているかだけではありません。その結論を支える推論の組み立て方が妥当かも問われています。この記事では、元記事のうち今回参照できた範囲、つまり2024年11月の講演で語られた「巨大テック企業は死につつある」という主張の検証を中心に整理します。元記事にはこのほかにも予測の一覧があるようですが、今回取得できた本文には全体が含まれていないため、的中率の全体像は扱いません。
議論の出発点
まずLuu氏は、自分の立場とバイアスを明かしています。2022年には、Kurzweil氏など評価の高い人を含む未来学者の予測を広く調べ、結果も推論も「おおむね外れていた」と結論づけました。一方で2015年には、AIが人間の仕事を置き換える力を人々は過小評価していると書いています。AIについての自分のスタンスは、次の一文に要約されるそうです。
“if something is currently happening, the people who are saying that it’s impossible that it will ever happen are probably wrong”
(いま実際に起きていることについて「それは絶対に起こりえない」と言う人は、たぶん間違っている)
利害関係についても説明しています。AI企業の株はインデックスファンド経由で標準的な比率を持っているだけです。シード段階の投資先はAIの比重がむしろ低めで、AIラボやその取引先で働いてもいません。
検証の例として取り上げられたのは、2024年11月の講演です。Zitron氏はそこでMetaについて「it’s a dying product, and it’s kind of a dying company」と述べ、GoogleとMicrosoftについても「成長の仕方が分からず、焦ってAIをあらゆるものに押し込んでいる」という趣旨の主張をしていました。Luu氏はこれに対し、暦年ベースでそろえた売上と利益(GAAP営業利益)を示しています。カッコ内の数字は元記事の表の%の値です。
- Meta:売上 2023年$135B(16%)→ 2024年$165B(22%)→ 2025年$201B(22%)、2026年上半期$117B(30%)/利益 2023年$47B → 2025年$83B
- Alphabet:売上 2023年$307B(9%)→ 2025年$403B(15%)、2026年上半期$230B(23%)/利益 2023年$84B → 2025年$129B
- Microsoft:売上 2023年$228B(12%)→ 2025年$305B(17%)、2026年上半期$173B(18%)/利益 2023年$101B → 2025年$143B
この数字をもとに、Luu氏は3社のエコシステムは死につつあるわけではないと結論づけました。これほど成長している企業がAIに向かうのを、「成長の仕方が分からない」ことによる苦し紛れと見るのは無理がある、という見立てです。
論点の整理
Luu氏がとくに問題にしているのは、結論そのものより論証のパターンです。
To make the case that these things are dying, he pulls on minor issues that are not positioned to cause the very large changes he suggests are about to occur.
(「死につつある」と言うために、彼が示唆するほど大きな変化を起こしうる位置にない小さな問題を引っ張ってくる)
- Metaの根拠:Zitron氏は、Facebookの月間アクティブユーザー(MAU)が減ったという数字を持ち出しました。Meta自身の数値ではなく、Similarwebの推計を使っていたようです。Luu氏によると、こうした第三者の計測値は大まかな桁の比較くらいにしか使えません。FacebookはMAUの公開を2023年12月にやめていますが、多くの推計ではMAUは増えています。Luu氏は、Zitron氏が外れ値の低い推計を都合よく選んだと指摘しています。
- Googleの根拠:Zitron氏は、検索部門を率いたPrabhakar Raghavan氏が検索に大きな害を与えたと主張しました。これに対しLuu氏は、Googleの検索エンジニアたちはこの説に同意していないようだと述べます。さらに、仮に検索が伸び悩んだとしても、YouTubeやGoogle Cloudといったほかの主要事業が成長を支えうるので、Google全体の成長が危ういことにはならないと論じています。
- 一方で認めている点:Luu氏自身も、Google検索の品質には深刻な問題があり、ユーザー体験より収益を優先する傾向が強まってきたと認めています。2013年にGoogleにいたとき、検索エンジニアから聞いた話も紹介しています。一度に変えると露骨すぎるので、広告を検索結果に似せる変更は、A/Bテストで少しずつ何年もかけて進むだろうという話でした。実際にそのとおりになったといいます。ただ、この変化はGoogleにとって稼げる施策です。成長余地がなくなった証拠にはならない、というのがLuu氏の整理です。
つまり対立しているのは「Googleに問題はあるか」ではありません。その問題が「会社が死につつある」という規模の結論を支えられるかという点です。元記事では最後に、人々がZitron氏を「数字を見た権威」として引用している状況にも触れています。ただ、今回取得できた本文はそこで途切れています。
読者にとっての示唆
- 懐疑論も楽観論も、結論だけでなく根拠と結論の規模が釣り合っているかを確かめる必要がある
- 第三者のトラフィック推計のような二次データは、公式の数値や決算と照らし合わせないと、外れ値を拾ってしまう危険がある
- 「部分的な問題がある」と「全体が衰退している」は別の主張であり、区別して読む必要がある
- 論者が自分の利害とバイアスを先に開示すると、読者は主張の重みを判断しやすくなる
まとめ
Dan Luu氏は、Ed Zitron氏の「Meta・Google・Microsoftは死につつある」という主張を決算の数字で検証しました。3社は売上も利益も伸びており、主張は推論の段階で成り立たないと結論づけています。
問題とされたのは、小さな事象から大きな結論を引き出す論証の型でした。
AI懐疑論を読むときは、結論より先に根拠の質と規模を確かめたいところです。
実装家視点で言うと、この記事はAIに賛成か反対かの話ではなく、主張を検証する手順の見本として読むのが一番役に立つと思います。僕はLuu氏の姿勢に賛成です。Googleの問題は認めつつ、それが「死につつある」という結論まで届くかを一段ずつ確かめています。これはバグ報告を読むときに、症状と根本原因を分けて考えるのと同じ作業です。現場でAIツールを採用するかどうか決めるときも、SNSで強い言葉を見かけたら、まず一次データと結論の規模が合っているかを確かめる。この習慣は、懐疑派の意見にも推進派の意見にも同じように使えます。


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