「Claudeは嫌な奴になりつつある」——BitTorrentの開発者として知られるBram Cohenが2026年6月14日に自身のブログで公開した記事が、Hacker Newsで議論を呼んでいる。論点はベンチマークスコアや推論能力ではなく、モデルの態度・話し方だ。コーディング能力には無数の指標があるのに、会話の質を測る指標は存在しない——彼の主張の核はそこにある。この記事では、元記事の主張を原文引用で確認しつつ、Cohenが挙げた仮説と、そこから読み取れる含意を整理する。なお元記事は個人の使用観測に基づく論考であり、定量的な計測データは示されていない点は先に断っておく。
議論の出発点
Cohenは冒頭で、劣化がどのモデル世代から始まったかを名指ししている。
Claude is turning into as asshole. It started with Opus 4.7, got a bit better in 4.8, and became insufferable with Fable. It frames everything as an argument between you and it, gives caveats about things you didn’t say, and raises beside-the-point semantic nits all over the place. Never, ever does it use the word ‘technically’. Everything is a confrontation.
(訳:Claudeは嫌な奴になりつつある。Opus 4.7で始まり、4.8で少しマシになり、Fableで耐え難くなった。何もかもを自分と相手の言い争いとして枠づけ、こちらが言ってもいないことに但し書きをつけ、的外れな語義の粗をあちこちで指摘してくる。’technically’という言葉は絶対に使わない。すべてが対決なのだ。)
これが単なる主観ではないことを示すため、彼は次のような手順を試したと書いている。Fableに質問して不快な応答を得る → 同じ質問をOpus 4.6にして、平凡だが妥当な応答を得る → 望ましい答えを一切示唆せずにFableの応答をOpus 4.6に見せる。結果は「うわ、それは不快だな」に相当する反応だった、という。あくまで本人が挙げた事例であり、試行回数や質問内容の詳細は元記事には示されていない。
論点の整理
Cohenは原因として4つの可能性を並べている。いずれも彼の推測であり、確定的な根拠は提示されていない。
- アラインメント・ガードレールの過剰:ユーザーの発言をデフォルトで「悪いことをさせようとする試み」と見なす訓練が全文脈に染み出した結果、皮肉にも「極めてミスアラインなチャットボット」になっている、という見立て。彼は実例として、あるプロジェクトの責任ある開示(responsible disclosure)ポリシーについて尋ねたらFableからOpusへダウングレードされた、と述べ、新しいアラインメント機能が拙速かつ雑に後付けされた証拠だとしている。
- 脱・追従(sycophancy)チューニングの失敗:単に「同意しすぎるな」「もっと反論しろ」と訓練すれば、現状のような無礼さは容易に生まれ得る、という指摘。相手の論旨の核は認めつつ周辺の些細な点だけ訂正する’technically’的な言い方を訓練すべきで、逆に「I’d like to gently push back(少しだけ反論させてください)」のような、対決的でないふりをした受動攻撃的な物言いはやめさせるべきだと書いている。
- 学習コーパスの偏り:Redditのような、全員が最後の一言を取りに行くフレームウォー的な会話(あるいはAnthropic社員同士のやり取り)を学びすぎている可能性。ただしCohenは、悪い会話を除くだけでは足りず代わりの良質なコーパスが必要で、それは言うほど簡単ではないと自ら留保をつけている。
- コーディング偏重の副作用:これを彼は「明らかに寄与している要因」と位置づけている。
The are no headline metrics for how well the chatbots chat but there most definitely are for coding, and all the money is in coding. Claude models have been getting notably worse at chatting over time, clearly inversely correlated to their ability to code.
(訳:チャットボットの会話の巧拙を測る看板指標は存在しないが、コーディングには間違いなく存在するし、金はすべてコーディングにある。Claudeのモデルは時間とともに会話が目に見えて下手になっており、コーディング能力とは明らかに逆相関している。)
その具体例として彼が挙げるのが代名詞の照応だ。文中の代名詞がどの主体を指すかを当てることは長らくAIの看板ベンチマークであり、初代ChatGPTですら安定して正解していたのに、今は信頼できないという。またFableは言われた内容を誤解してその誤解に反論することが多く、「弱い主張を作って叩くために意図的に誤読しているのか、判別がつかない」とも書いている。彼自身の現在の使い分けは、人間的な話題にはSonnet 4.6が最良だが技術・コーディングでは最悪なので、たまにしか使わない、というものだ。
元記事はさらに、規制回避のために拙速なガードレールが入った可能性、輸出規制、AI支援コーディングがもたらしたセキュリティ問題の急増(彼は「2月以降のもの」と特定している)にも言及している。彼の立場は明確で、「猫はもう袋から出ていて、それは何ヶ月も前からだ」以上、解決策は可能な限り多くのプロジェクトがホワイトハット評価とパッチ適用を高速に回すことであって、特定のフロンティアモデル1つを全ユーザーに対して嫌な奴にすることではない、というものだ。
コメント欄の反応も一枚岩ではない。Darren Mckeemanは「明らかな解決策はローカルモデルを使うことだ」と応じ、Kevin Lackerは別の症状——モデルがますます専門用語まみれ(jargony)になり、作った仕事を造語だらけで説明してくるので後から調べ直す羽目になる——を挙げ、その原因を「訓練タスクの時間軸が長くなっているせいではないか。人間と同じで、自分の頭の中で過ごす時間が長いほど性格は付き合いづらくなり、伝えるのが下手になる」と推測している。
読者にとっての示唆
元記事から実務的に取り出せる論点は、大きく3つに絞れる。
- 計測されない品質は守られない:Cohenの主張の中で最も検証しやすいのがこれだ。会話の質に看板指標がないなら、それが下がっても誰の目標にも引っかからない。自分の用途がベンチマーク化されている領域なのかどうかは、モデル更新のたびに効く前提条件になる。
- 用途によるモデルの使い分け:Cohen自身が、人間的な話題と技術的な話題でモデルを分けるという運用に落としている。1モデルを全用途に使う前提を置かない、というのは元記事から素直に導ける態度だ。
- ガードレールの誤検知はコストとして現れる:責任ある開示ポリシーの質問がダウングレードを招いた例が示すのは、安全側の作りが正当な作業を止めうるということ。なお彼は認証の全面否定はしておらず、薬物合成のような文脈では経歴の証明を求めるのは妥当で、そうした認証はオプトインであるべきだと提案している。
まとめ
Bram Cohenは、Opus 4.7以降のClaudeが対決的・些末な語義論争的になったと主張し、原因としてガードレール過剰・脱追従チューニングの失敗・コーパスの偏り・コーディング偏重の4説を挙げた。
最も具体性があるのは「会話の質には看板指標がなく、金はすべてコーディングにある」という構造的指摘で、彼はこの傾向が今後さらに悪化すると見ている。
ただし元記事は個人の観測と個別事例に基づく論考であり、定量的な比較データは示されていない。
実装家視点で言うと、この記事で一番使えるのは態度の良し悪しの話ではなく「指標がない品質は静かに劣化する」という一般則のほうだ。自動化パイプラインを組んでいると、コード生成の成否はテストが弾いてくれるが、「文章の読みやすさ」「指示の解釈精度」は誰も採点しないので、劣化しても気づくのがモデル更新の何週間も後になる。用途ごとにモデルを分けるというCohenの運用は理にかなっていると思うし、自分でも合否判定を機械化できない出力ほど人間ゲートを残すようにしている。一方で、この記事の証拠は本人の事例提示にとどまり、追試可能な形にはなっていない。同じ体感を持っている人が多いこと自体は情報だが、それを原因の断定に使うのは早い、というのが正直なところだ。


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