米プリンストン大学が、1893年以来133年間続いた前例を覆した。2026年5月11日の教授会で、全ての対面試験に監督官(プロクター)を配置する提案が反対1票で可決。学生の自主性に委ねてきた名誉規定(Honor Code)の運用を、生成AIの普及を背景に大きく転換する。実施は2026年7月1日から。学生新聞The Daily Princetonianが報じた。
発表内容
可決された提案では、教員は試験教室に「起きたことの証人(witness)」として在室するが、学生に干渉はしない。Honor Code違反が疑われる場合、監督官は観察内容を記録し、学生運営のHonor Committeeへ報告書を提出する。提案の位置づけについて、記事はこう伝えている。
All in-person examinations at Princeton will be proctored starting July 1, representing the most significant change to the honor system since it was established in 1893.
(プリンストンの全対面試験は7月1日から監督官が付く。1893年の名誉制度確立以来、最も重大な変更だ)
この提案は3段階の承認プロセスの最終段階にあたり、Committee on Examinations and StandingとFaculty Advisory Committee on Policyでは既に全会一致で可決されていた。Dean of the CollegeのMichael Gordin氏が主導したとされる。
なぜ重要か
プリンストンの名誉制度は1893年、監督官を廃止する学生の請願を受けて始まった。以降133年間、監督は「Rules and Procedures of the Faculty」等で明示的に禁止され、学生の自己申告と相互報告に依存してきた。今回はその前提そのものを覆す。
提案はAIと個人用電子デバイスを転換の主因として挙げる。原文は、これらのツールが試験中の不正の「外見」を変え、他の学生にとって不正を観察しにくく(=報告しにくく)したと指摘する。加えて、ドキシングや仲間内での中傷を恐れ、匿名での告発が近年増えているとも記す。
数値の裏付けとして、2025年の卒業生調査(回答500人超)では、29.9%が在学中に課題や試験で不正をしたと回答、44.6%が違反を認知しながら報告しなかったと答え、実際に同級生を報告したのはわずか0.4%だった。学部学生自治会(USG)の調査では「多数が監督官配置に賛成か無関心」だが、「相当数の少数派」が1893年以来の信頼契約を理由に反対したという。
現時点での未確定事項
記事の範囲では、次の点は確定していない、または明示されていない。
- 監督官対学生の比率や監視方法のガイドラインは、施行前に教員・学生代表と協議して最終決定するとされ、具体的な数値は示されていない。
- AIの検知方法や、AI利用に特化した技術的な対策の有無について、記事に具体的な記述はない。
- Honor Committee憲章とHonor Code本体は改定不要で、更新されるのは「Rules and Procedures of the Faculty」と「Rights, Rules, and Responsibilities」のみとされる。
提案自身も、監督官配置が不正を根絶するわけではないと認めており、狙いはあくまで抑止効果と、試験中の学生が他者を監視・報告する負担を減らすことだと述べている。
まとめ
- プリンストンが1893年以来の「監督官なし」を覆し、2026年7月1日から全対面試験に監督官を配置。
- 生成AIと個人デバイスの普及、匿名告発の増加、低い相互報告率が転換の背景。
- 比率や監視方法などの運用詳細は施行前に協議して確定予定で、現時点では未定。
実装家視点で言うと、これは「性善説の運用が、検知不能な不正ツールの前で維持コストに耐えられなくなった」典型例だと思う。133年もった信頼ベースの仕組みが揺らいだ理由が、罰則強化ではなく「不正が観察しにくくなったから報告が機能しない」点にあるのが本質的だ。生成AIが持ち込むのは新種のカンニングというより、既存の統制構造の前提を静かに壊す作用で、これは大学だけでなく、あらゆる自己申告・相互監視で回っている現場に同じ問いを突きつける。


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